Nepenthes St. Pacificus 植え替えてみた

By b.myhoney - 6月 30, 2022

カクタス長田さんの食虫植物アソートで2年前に入手した本種は、N. ventricosa x biakという両親を持つ交配種です。いまやホムセンネペンとして不動の人気を得つつあるNepenthes Gaya(ネペンテス・ガヤ)と同じく、ハワイにあった名門ネペンテス・ナーセリーのLeilani Nepenthesがこの世に残した品種です。Leilaniはもうこの世にはありませんが、組織培養に入っている本種とN. Gayaは今でも世界中に広く販売され育てられている、ということだそうで。

N. Gayaと同じく強靭でとても育てやすく、特に乾燥、寒さ、強光量にかなりの強さを見せる印象を持っているので、初心者にも最適な品種だと感じています。水捌けの良い用土に植えて適切に管理することで、余程のことでは枯らすことがないのではと思います。また、最低気温10℃程度の室内に取り込めば無加温で冬越しできることは確認済みで、温室や加温設備を持たない栽培者にもシーズンを跨いだ栽培が可能な品種です。

これまでの記事はこちら。

bijou nepenthes: Nepenthes St. Pacificus

ネペンテスがぐんぐん調子を上げてくる5月頃から、家の近くのホームセンターや園芸店には食虫植物が並び始めます。栽培品の調子も上向きワクワクしてくる季節ですよね。 意外と侮れないホムセンネペン 近所のお店ではカクタス長田さんや大彰園さんのアソート、あとはお隣愛知県の農家さんで生産されたと思われる

 bijou nepenthes: Nepenthes St. Pacificus この品種ひょっとして意外と...?

片親は石灰岩種

父親がNepenthes biakとされていますが、この種はもともと主にニューギニア島周辺に生息するNepenthes insignisの中のバリエーションの1つと認知されていた種でした。ニューギニア島の近くのビアク島固有の本種はかつてN. insignis 'Biak'などと呼ばれて、本島のフォームと区別されてきましたが、2018年に新種として独立した(M.Cheek et al., 2018)という経緯があります。

本島のN. insignisとは違って、N. biakはベントリコーサの仲間としては珍しく石灰岩土壌に生育する種で、またマングローブ林に着生するのも確認されているとのことです。こういう種は根部を通気よく&水捌けよく植えるのが吉だと思いますし、もう片方のベントリコーサも同じように言われることが多い気がするので、それらの交配種である本種もそのように管理しています。今のところ。

石灰岩土壌のネペンテスについて

bijou nepenthes: 石灰岩土壌のネペンテス その1

bijou nepenthes: 石灰岩土壌のネペンテス その2

ただ、交配種になった途端に強健さが増して吸水量が増え、一転して水好きになるというケースもしばしばありますし、植物にとって適切な水分量は光量や日照時間、通気、温度、鉢のサイズ、根の量…等々さまざまな因子によって大きく変わってきますので、なかなか一概には言えない部分もあります。

つまり、結局行き着くところは「植物を毎日よく観察して各人の環境でのベストを探ってくださいね~」となるんですよね。まあ自分は全然できていないんですけどね。

植え替えてみた

今年の4月に、ホームセンターで「タイ製テラコッタ」なるものを不意に見つけまして、なにやらエスニックな雰囲気が気に入ったので、なんとなく植え替えてみました。栽培スペースには機能性重視の緑色のスリット鉢や素焼鉢ばかりでしたので、たまには気分を変えて。

意外にも水持ちの良い用土を使っていたみたい。すっかり忘れていた

鉢から抜いてみて、鹿沼土に加えてセラミスやベラボンがけっこう多めに配合された、やや水持ちの良さそうな用土だったことに少し驚きました。自分ではもう少しカラッカラの用土で植えたつもりでいて、鉢も素焼きだったので「流石にちょっと乾きすぎかな」と思っていたところでしたので。

自分でも何の用土で植えたかすっかり忘れていたという…。これからは記録をしっかりと残そうね、自分。

植え替え完了(4月)

根に付いた用土はなるべく落とさないように、そこに新しい用土を足して鉢増ししました。使用したメディアは家に余っていたものを適当に配合したもので、小粒と中粒の鹿沼ベースに、中粒日向とベラボンを少々という感じ。THE・雑。

この鉢はそこそこ通気性があり、用土も粒が荒めなのでよく乾きます。晴れの日には毎朝水を上からドバーっとかけ流すのですが、夕方にはカラカラになっているというのを繰り返す日々です。

N. St. Pacificus

現在の様子。

なんと植え替えから2ヶ月半ほどの間に葉を3枚展開しつつ、まぁまぁなサイズのピッチャーを4つ、すべて並行作業で作り上げました。屋外露天の直射日光下に放置、しかも植え替え直後だというのに…!

さすがに、ピッチャーの形成にそこそこエネルギーを使ったせいか葉のサイズは大きくなっていませんが、このタフネスとスピード感こそホムセンネペンの真髄ですよね。何も気を使わずともよく育ってくれるので楽しいです。

N. St. Pacificus
aged and fresh pitchers

ピッチャーの開きたての頃は襟も淡い色合いで、見た目もほとんどベントリコーサにそっくりです。襟がふわっと上から降りてくるのも、わが家で育てている在来ベントリコーサとかと一緒。


そこから少しすると襟は巻いていきます。

左のピッチャーは完成からもう少し時間が経過していて、N. biakを思わせる渋い色合いの襟に変化してます。派手さこそないですが、この渋い配色がけっこう好きです。襟は一定の幅ではなくて、上半分がやや幅広なのがN. biak譲りです。

名前の由来?

ところで、本種のSt. Pacificus(読みはセイント・パシフィカスでいいと思う)という馴染みのない名前は一体どこから来たのでしょう?

真相は本種を作出したレイラニ・ネペンテスの中の人(Samuel Estes氏)に聞く他ありませんが、ちょこっとググってみた感じ、恐らくは17世紀のイタリアの聖職者に因んでいるとみて良いと思われます。

聖ソフィア大聖堂にあるSaint Pacificusの像
(via Wikipedia)

1653年にイタリアで産まれたPacificus of San Severinoは、3歳のときに両親を失くしただけでなく、成人後にも29年間に渡って、盲目、聴覚障害、さらに歩行障害という体の三重苦(!)に苦しみながらカトリック教会の聖職を務めあげたとして、後に聖人(Saint)の称号を与えられた人物です。後世の慢性的な痛みを抱える人たちにとっての守護者とされているそうで。

ハワイのLeilani Nepenthes(2018年にキラウェア火山噴火により廃業)を運営していたEstes氏が熱心なカトリック教徒だったかどうかは定かではありませんが、Saintという地位を与えられたPacificusさんに因んだ品種名であることは間違いなさそうです。

以上、豆知識でした。ネペンテスは教養を深めてくれる良い趣味ですね←

以前よりも大きなサイズの鉢に植えて根張りを充実させる準備は整いましたので、なるべく徒長させずがっしりとした株になるよう良く日光に当てて、これまでよりも大きくて渋いピッチャーを付けるように仕立てていきたいところです。今日はこのへんで。

  • Share:

関連する記事

0 Comments