Nepenthes palawanensis (seed grown) BE-4013

By b.myhoney - 6月 02, 2022

もうあっという間に6月に入りました。

わが家の多くの植物たちにとっては、今ぐらいの気温が丁度よいと思われるのですが、そのうち割とすぐに梅雨に突入して日照が不足&過湿な時期に突入し、その後は本格的な暑さのため生育が鈍る時期がやってきます。

それを理解した上での屋外栽培なので別に良いですし、その中で自分ができることをやるだけなのですが、もっとこの季節が長くてもいいんだぞ!とは思いますね。

N. palawanensis BE-4013 (Borneo Exotics)

実生のパラワンエンシスが今シーズン初のまともな袋を付けました。やはり本種も、日照時間がないと袋を付けないという、フィリピン系あるあるな性質の持ち主なんでしょうか?

でもこのBEのN. palawanensisは、性質としてはとても素直で、強健そのものな気が今のところはしています。小さな2.5号鉢に押し込めたままなので、株の直径はたいして大きくなっていませんが、導入してからあまり停滞もせずに淡々と葉を展開しています。

本種の故郷Sultan Peakと谷を挟んで隣接するMt. Victoriaの近縁種、N. attenboroughiiの評判から想像して栽培に苦労するのではと心配していましたが、存外な素直さに拍子抜けでした。まぁ、Sultan Peakの方が高度もかなり低いですしね。

この種に関する基本的な情報は、過去記事に少し書いてあります。 

bijou nepenthes: Nepenthes palawanensis BE-4013 seed grown 

この記事で私は、本種を超苦鉄質土壌に生育する種として紹介しました。

超苦鉄質土壌はボルネオ等やパラワン島などの山岳地帯にしばしば点在し、これら地域固有の大型高地性ネペンテスが自生する環境として登場します。このような土壌は、マントル物質など海底地殻に由来するためにマグネシウムや、鉄・ニッケル・クロムなどの重金属類を多く含有し、その化学的組成の特異さから植物の生育を阻害することが知られています(=はげ山のようになる)。

超苦鉄質岩(ultramafic rocks)地帯のネペンテスは、このような他の植物との競争が少ない土壌に適応して生き延び、山岳ごとに固有な種として個性的な姿かたちを発達させてきたというわけです。

本種が自生するパラワン島の成り立ちは、南シナ海形成時にユーラシア大陸の一部が分離して現在の北部パラワンを形成し、そこに海洋地殻が衝上(乗り上げるようなイメージ)して南部パラワンとなったと考えられています。こういった成り立ちから、海底由来である超苦鉄質岩地帯は島の中部~南部に主に分布しています。パラワン島に豊富な、超苦鉄質岩帯の固有種(N. palawanensisの他にも、N. attenboroughii, N. deaniana, N. gantungensisなど)がその地域に集中しているのは決して偶然ではなく、島の成り立ちによる土壌の分布が深く関係しているということですね。

わが家にも、N. palawanensisとN. burbidgeaeという超苦鉄質土壌のネペンテスがいるので、この土壌についてはいつかきちんと調べて記事にしたいと思います(多分。。時間があれば)。


順調に葉を展開するのですが、リーフスパンは冬季に若干小さくなっています。まあ、日照も湿度も不利な冬季なのである程度は仕方ありません。

葉が何枚か傷ついていますが、これは鉢を2回も(!)ひっくり返したときに痛めたものです。つまり、根の定着もその際にいくぶんリセットされているはずですが、それでも冬に着々と葉を展開したあたり、この個体は強健といえそうです。

それにしても、栽培下に導入されているN. palawanensisは、自生地の写真よりも葉が赤黒い色味の株が多い気がするんですよね。これって、こんなもんなのでしょうか?


袋の蕾を上から見るとコロッと丸くて、なんだかチョコボールみたいで可愛いです。自生地のように数十センチの袋を付けさせるには、株をどれくらい大きくすれば良いのでしょう…?


ピッチャー本体は焦げ茶色で、まるでサクッとした食感のチョコスナックを思わせます。

一方、この個体の襟はイエローから茶色のグラデーションで、こちらはカラメルの滴るプリンを想起させます。

…さっきからお菓子ばかり登場しますが、この記事を書いている私が空腹なのがいけないですね、恐らくw


よく見ると、このサイズにしてフタの付け根部分に牙を発達させていてカッコいいです。よくもまあ、こんなにも精密に凹凸を形成するよな、と工学部および理学系研究科卒の私は感心したりします。

みんな大好きなキバ系の原種たちも、自然の造形物とは思えない形態をしていますよね。生命の神秘。


一つ前の袋は、冬から春先にかけて、形成不全で極小のフタを携えて完成しました。これはこれで可愛いですね。

BE-4013は、Borneo Exoticsの説明によれば、多数の培養クローンのアソートとして販売されているBE-3651と同じグレックス(両親)だということです。何故、最近になって昔のフラスコ苗と同グレックスの種子をわざわざ撒いて、実生個体を販売しているのかという疑問があるので、その説明の真偽は一旦さておき、どちらの品番も個体差が結構あって面白いとは思います。

この個体のように焦げ茶色に染まるシブい個体もあれば、もっと斑点の目立つポップな印象の個体もあり、襟もカラメルプリンからストライプまで、実にバリエーション豊かです。実際、BEも公式に認めている通り、元々の種子が交雑の可能性もあって、確かにBE-3651ではかなり縦長のピッチャーを付ける個体も確認できています。N. philippinensisに似た種との自然交雑も確認されているようですし、それ系の交雑だとは思います。

この株の強健さも雑種強勢として説明が付きそうではありますが、私のスタンスとしては交雑があろうとなかろうと、美しいピッチャーを付けてくれているので特に気にしません。(丈夫なのは初心者的には嬉しいポイントでもあります)

こういう大型種はリーフスパンがメートル級にならないと本領発揮の大きさのピッチャーを付けないというのが定説ですが、そうは言ってもスペースには限りがありますし、少しでも葉に対して大きなピッチャーを付けさせられるように栽培できたらいいなと思います。

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