Nepenthes veitchii Bario x peltata 'konan'

By b.myhoney - 11月 29, 2021

前回に続き交配種をば。つい最近わが家にやってきたこの株は、中川泰秀氏が作出したものになります。

中川氏は今更言うまでもなく、N. 'Attractive Fuso'やN. 'Sachiko'、N. 'J & B'などの傑作交配種をいくつも生み出してきた、わが国におけるネペンテス界の巨匠の一人です。

N. veitchii Bario x peltata 'konan'

この株はリベラルファームさんから導入しました。

この発色や襟のストライプを見て分かる通り、母親のN. veitchii Barioの影響が多く現れています。葉の裏にN. peltata特有の赤みが見られないことからも、母似の個体であると推測できます。

'konan'は中川氏の園芸品種に付けられる識別子のような名称(だと思っています…)で、恐らく氏ゆかりの地に因む名なのではと思います。

Nepenthes peltataの基礎情報

N. veitchii Barioについては一家に一株ぐらいの勢いで(ただしネペン愛好家に限る)広く普及しているので今更説明の必要は感じませんが、ペルタタについては一度ここでまとめておきたいと思います。

N. peltataはフィリピンはミンダナオ島のハミギタン山(Mount Hamiguitan)にのみ自生が確認されている種で、種小名は「盾状の、盾着の」を意味するpeltateのラテン語表記です。

盾着する蔓の付け根

盾着(じゅんちゃく)とは、蓮のように葉身(葉の広がった部分)の端ではなく奥まった位置に葉柄(付け根の軸)が付くことを指し、葉がちょうど持ち手の付いた盾のような形状になることに因ると思われます。

盾着する蓮の葉

Nepenthes peltataでは葉柄ではなくピッチャーの蔓が盾着しています。ネペンテスではN. peltataの他にN. rajahやN. clipeataなどが同様に先端から少し奥まった蔓の付け根を持つことが知られています。

Nepenthes peltata @Stewart McPherson

なぜこのような特徴的な蔓の取り付け位置なのかは分かりませんが、蓮などの水生植物では葉を高く持ち上げるように葉身の重心近くに葉柄が付くことが多いそうで、本種やN. rajahなども大型のピッチャーを支えるために重心バランスや負荷の点でより内側に付くようになったのですかね?

本種は以前より国内の栽培下に流通しその存在は知られていたようですが、正式に記載されたのは2008年1月号の食虫植物研究会々誌に投稿された倉田重夫氏の記事で、植物標本は京大植物園に収められています。

生態や自生環境など

本種はピッチャーや草体に満遍なく細い毛が生えています。アッパーピッチャーは極めて稀か、そもそも存在しないとされています。基本的にはずんぐりとしたロアーピッチャーを付ける種で、その形状や独特の色合いに魅了される人が多いような気がします。

また、蓋の裏面からN. lowiiなどと同じく白い固形の蜜を分泌することがあるらしく、そのような種と同様に小動物の排泄物の栄養分を充てにしている側面があるのかもしれません。

photo @Borneo Exotics

 自生高度は海抜865 mからハミギタン山の山頂1,635 mまでという幅広い垂直分布を持っており、この事実からも伺える通り温度適応性が高いとされます。

山地上部の苔むした森や尾根、崖や開けた斜面などハミギタン山中の幅広い環境で自生しているようですが、ボルネオ系大型種のN. rajahやN. burbidgeae、近縁種とされるフィリピン・パラワン島のN. attenboroughii、N. deanianaなどと同じく、普通の植物の生育が困難な超苦鉄質土壌に限定的に生育する種です。

頂上付近や崖など開けた土地、または超苦鉄質岩のもつ化学的特性で草木の生育が阻害された低木地域に自生することから想像されるように、本種は同系統のフィリピン系と同じく日照を好むとされます。耐陰性も持つようですが、直射日光下でよく生育します。

N. veitchii Bario x peltata = ?

そのネペンテス・ペルタタをビーチ・バリオと交配させたこの株はどのような生育特性を持つのか、ということを想像すると、まずは用土を乾燥気味に保つのが良いのではないかとの見立てが立ちます。

N. veitchii Barioは地生種ですが用土の過湿を嫌う側面があり、厚みを持った葉も乾燥に耐える種に多い特徴で用土を乾かし気味に管理するのが定石とされています。

また、N. peltataも他の超苦鉄質岩土壌の大型種と同様に、根からの吸水が阻害されても降雨などを溜めておけるようピッチャーを大型化させたのでは?と感じるふしがあり、近縁のフィリピン種も用土の乾湿を意識して灌水するよう言われるケースが多いと思います。

適正な温度は中間地性だとは思いますが、両親ともに温度適応性があり慣らせば低地性の環境でも問題ないと思われますので、わが家の夏季の環境でも問題なく育ってくれるのでは?と期待しています。

the whole plant of the promising hybrid

高地性veitchiiもpeltataも日照を好むと言われますので、光がよく当たるようにしてみようと思っています。

ネペンテスの場合、特に夏季など50%程度の適度な遮光が必要ですが、春季から徐々に慣らせば強光耐性の向上も期待できます。

上の写真を見て分かる通り、N. peltataの血はピッチャーに対して草体が大きくなりがちなので、強い光で草体を引き締めつつも、乾湿で根を充実させて大きなピッチャーが付くように仕立てていけたらいいですね。

'candy striped' peristome

細かく密に入る襟のストライプはとても好みです。このストライプの入り方やピッチャーの発色を見るだけでも、中川氏のN. veitchii Barioはとんでもないポテンシャルを持っているであろうことがすぐに分かります。しかも雌株!ボディの発色が良いストライプ襟のN. veitchii Bario♀は恐らくかなり少ないと思われ、価値が高いです。

葉の裏が赤くないだけでなく、葉の形状、襟のフレア形状やストライプも母親譲りの一方で、ピッチャー形状や斑点模様など所々にペルタタの血も感じます。

front view of a juvenile pitcher

光に透かして見るピッチャーは綺麗ですよね。順光とはまた違った印象の表情を見せてくれます。

剛毛×剛毛の交配だけあって、この写真では蔓に無数の細長い毛が生えているのがよく分かりますね。


 

新芽はこのように赤く染まり、本個体の発色の良さを期待させます。もちろんモジャ毛。

次の蕾も少しずつ膨らんできています。ひとまずはうちの環境に慣れてもらって、その次から本調子のピッチャーを付けてくれればいいですね!

 

参考文献:
Tom's Carnivores 'Species Showcase: Nepenthes peltata, by Francis Bauzon'

Musėkautas 'Nepenthes peltata' (Stewart McPherson)

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