Nepenthes boschiana BE-3448

By b.myhoney - 5月 30, 2022

先週の木~金曜日は凄い雨に見舞われました。子供のころに比べて、熱帯のスコールのような降り方の雨が増えているのは間違いなさそうです。そしてその後は、まるでもう夏が来たような暑さ。

私は最近も忙しい日々が続いており、なかなか記事を投稿できずにいました。植物も水をやる以外は基本的に放置していましたが、彼らは彼らなりのペースで生長しています。そろそろ薬散しないと...だいぶ間が空いている気がします。

私が育てているネペンには難しい種類はいないので、管理と言っても鉢の表面が乾いたら灌水するだけの簡単なお仕事なのですが、加えて、できるだけピッチャーには水を入れるようにしています。こうするとピッチャーが長持ちしますし、逆にいつも水が少ないと結構すぐに袋が枯れます。多分、うちではそれだけ空気が乾燥しているということ。

それに、ピッチャーは水分貯蔵器官としても重要な役割を果たすと思われるので、ある意味、根からの吸水のバックアップの意味もあると思います。私は日中仕事で灌水ができませんので、朝は鉢の表面が濡れていて水やりには早いけど、夜に見てみるとカラッカラに乾いている、ということが良くあります(特に夏場)。ですので、光合成に必要な水分が不足しないように、そしてドライアウト予防として、ピッチャーへの給水は特に私の環境では重要です。空中湿度を高く維持できていないので、少しでもその代わりに…というささやかな抵抗というわけです。

N. boschiana BE-3448 (Borneo Exotics)

ずっと欲しかった原種をこのたび手に入れました。ボルネオ島固有種のボッシアナです。

N. boschianaの基本的な情報

緩い括りでいうと、N. maxima complexという集団に属する本種は、N. faizalianaN. stenophylla(特に前者)に近縁とされます。

主に2箇所の産地が知られていて、いずれもボルネオ島南部の南カリマンタン州を左右にほぼ2分割するように走るMeratus山脈に属する山です。Meratus山脈は、例えば北部のキナバル山などに比べると比較的低山から構成される山脈です。以下に大まかな場所を赤色の三角形で示します。

N. boschianaの産地
Subir B. Shakya et al., Bull. B.O.C. 138(1), 2018のFigure 1を基に作成.

1つめの産地はボルネオ島の南端に近いGunung Sakumbang (GunungはMountの意味。Sakumpang, Sakoembangなど表記に揺らぎが有)です。山頂が950 m程度の比較的低い山のようです。G. Sakumbang産として栽培下に導入されているN. boschianaは、襟が薄く巻き、全体的に黒っぽい色味の個体が多い印象があります。

もう1箇所は、少し北へ行ったMeratus山脈にあるGunung Besar(1,901 m)です。こちらは、1,300~1,800 mというボルネオ島最高峰クラスの石灰岩地に局在して自生するとされます。G. Besar産は襟が平らで幅広く、その他にも蓋や蜜腺などに違いがあるとして、かつてはN. borneensisという別種として扱われていました(J.H.Adam & C.C.Wilcock, 1989)が、後にN. boschianaに統合された(M.Cheek & M.Jebb, 2001)という経緯があります。

本種は基本的に石灰岩土壌に自生するということで、超苦鉄質岩の高山性ネペンテスのようなイメージで、砂利系用土を用いて水捌けよく植えるのが良さそうです。2004年には実際に石灰岩ではなく超苦鉄質土壌でも発見されたという報告(C.C.Lee, 2004)もあるようです。

自生地へのアクセスの難しさによるのだと思いますが、まだあまり自生地の調査が進んでいないようで、以前はなかなか入手が困難な種だったようです。古くはMalesiana TropicalsやExotica Plantsなどのサプライヤーがあり、また私が購入したBEの他にBCP (Best Carnivorous Plants)などもクローンを保持しています。かつては入手先が限られたということで、これらの各サプライヤーの中に同一のクローンがある可能性もありますが、私にはその詳細は分かりません。

BEのN. boschianaの品番まとめ

今確認できる範囲では、これまでBorneo Exotics (BE)には6つの品番のN. boschianaがありました。

Marcello Catalano氏のDBを一部参考にしています。

品番:BE-3039
由来:G. Besar産
説明:単一クローン(性別は雄)

品番:BE-3040
由来:G. Sakumbang産
説明:他のサプライヤー由来、全4クローン、VID0330とも呼ばれた

品番:BE-3361
由来:BE-3040(VID0330) x BE-3039
説明:異なる産地同士の交配による実生個体群

品番:BE-3448
由来:BE-3040(VID0330) x BE-3039
説明:異なる産地同士の交配による全4クローンのフラスコ苗から構成。BE-3361からの選別クローン

品番:BE-3559
由来:BE-3040(VID0330) x BE-3040(VID0330)
説明:G. Sakumbang産同士の交配による実生個体群

品番:BE-3643
由来:BE-3040(VID0330) x BE-3040(VID0330)
説明:G. Sakumbang産同士の交配によるフラスコ苗の多数クローンから構成。

私が導入したのはBE-3448で、これはG. Sakumbang産の雌株とG. Besar産の雄株同士の交配から生まれた選別4クローンからの1個体です。

N. boschiana BE-3448の両親
左: 母株のBE-3040(G. Sakumbang産), 右: 父株のBE-3039(G. Besar産)

本種の栽培は簡単とされることが多いです。ただ、G. Sakumbang産は標高1,000 mに満たない一方で、G. Besar産は~1,800 mとなっており、厳密には産地によって適正温度の差異がありそうです。もっとも、Besar産が~1,800 mであるとはいえ、ボルネオ島南部という低緯度においては標高ほど寒くはなさそうな気がします。多分。。

なのでわが家では、G. Sakumbang産 x G. Besar産のこの株は中間地性的な管理で上手くいくと見ていますが果たして。

N. boschiana BE-3448
a juvenile pitcher

ピッチャーは硬めの感触で、今のところ父株譲りの黒っぽさを感じますが、襟には母株の幅広さが見て取れそうです。ピッチャー内側は黄色っぽい地に紫色の内斑があります。


襟は黄色からこげ茶色のグラデーションが綺麗です。色味に関する部分は日照などの生育環境や株の生育具合によっても変わり得るところなので、今後どういうピッチャーを付けていくのか注目していきたいです。

N. boschiana BE-3448
side view of a juvenile pitcher

横から見たときのネックの立ち上がりとか蓋の大きさがカッコよくて好きです。

本種は一見地味で、それほど人気のある種だとは思えませんが、本種を使った交配はどれも華やかで良いものばかりです。EPが本種を交配に多用している例からも伺える通り、大きくて硬質な持ちの良いピッチャーと華やかな襟、そして強健さを子孫にもたらすことができる本種は、交配親としても高いポテンシャルを持っていると思います。

この原種と交配親としての二面性を魅力的に感じ、しばらく前から気になるネペンテスでした。わが家の環境にうまく馴染んで無事に生長しますように!

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