Nepenthes sibuyanensis BCP

By b.myhoney - 8月 31, 2022

N. sibuyanensis {Guiting-Guiting, Philippine, 1400m}
(Best Carnivorous Plants)

N. sibuyanensisはその名が示す通り、シブヤン島の固有種です。ネペンテスの歴史の中では比較的最近の1996年9月に発見された種になります。

シブヤン島やパラワン島って、ネペンの多様性の中心であるフィリピン諸島とボルネオ島の交差地みたいな地理に位置していて、個人的にとてもロマンを感じます。例えばN. ventricosaのような典型的なフィリピン種と、N. rajahの血を引いていそうなボルネオ島の超苦鉄質岩性の大型高山種のミックスのような魅力的な原種が生息しています。

シブヤン島(Sibuyan Island)周辺の地理
(Google Mapより作成)

本種の概要については後日、また別の記事にまとめるとして、今日はBCPのネペンテス・シブヤンエンシスについて書いてみたいと思います。

BCP(Best Carnivorous Plants)について

BCP(Best Carnivorous Plants)はチェコ共和国のオストラヴァ市ポルバに位置する業者で、ネペンテスについて言えば高地性原種を中心に取り扱っています。培養クローンも多く保有している様子で、植物の出どころは主にBE(Borneo Exotics)やAW(Wistuba)などに由来するフラスコや苗、趣味家が現地採取した種子などがメインだと想像します。

HPにも明記されている通りアカデミックにも近いスタンスを取っており、先日パブリッシュされ話題となった地中にピッチャーを作る新種Nepenthes pudicaの論文もチェコ系の研究者の著者によるもので、BCPからも本種と思われる苗がNepenthes sp. Novaという名前で販売された模様です。

N. sibuyanensisの自生環境について

N. sibuyanensisは、シブヤン島の中央に陣取るMt. Guiting-Guiting固有のネペンテスです。現地の言葉で「ギザギザ」という名の通り、ノコギリ状に切り立ったフィリピン屈指の難山の超苦鉄質岩の砕石が転がる尾根に、本種は生息します。苦鉄質土壌と厳しい環境により、一般的な樹木の生育が抑制された拓けた斜面において、低木や草、シダ類に囲まれてまばらに生育しています。

Mt. Guiting-Guitingは標高2,058 mで、その概ね1,200 m~1,800 mの間に分布するとされています(文献により垂直分布には結構ばらつきあり)。この山のそれより低い高度1,000 m以下には、N. alataと良く似たネペンテス(N. graciliflora 'Sibuyan form'などと呼ばれたりする)やN. armin (750 m)が生息し、より高い高度(1,400~1,900 m)には最小のネペンテスN. argentiiが自生します。したがって本種は、未確認ながらN. argentiiとの交雑が起こり得るとされます。

シブヤン島は、海岸付近では20℃を下回ることはほとんどない一方で、1,500 m程の高度では1月に13~15℃程度まで夜温が下がり、また霧深く1年中雨が降り特に11月から1月にかけて強い雨に見舞われるようです。実際に、今週のMt. Guiting-Guitingの天気予報を見てみても、接近する台風の影響もあってか軒並み雨か雷雨予報です。

Mt. Guiting-Guitingの週間天気
(Google検索より)
このような自生環境ということもあり、本種は暑がって夏には全然ピッチャーを付けないとか高い湿度が必要などとしばしば言われますが、あまりそんなことはないと思います。わが家には由来違いのN. sibuyanensisが3株いますが、3株とも真夏の屋外露天(=昼間の最高温度は40℃近くなる、乾燥する風に吹きさらしの低湿環境)でも新しいピッチャーを膨らませています。

思うに、しっかりと日照を浴びること、水捌け・通気の良い用土に植えて風通しのよい場所に置くことで、多少暑がる様子はあるものの真夏の屋外でも問題なくピッチャーを作ってくれるのだと思いますし、基本的には強健な種だと思います。ただ、いくら現地では雨で濡れっぱなしだとは言っても、フィリピンの高山は日本の夏のような酷暑にはならないので、滞留する水分で根が蒸れてしまわないように濡れすぎには注意する必要はあります。


完全に一致!

この株は、昨年の冬にミズゴケに植え替える際、根回りをふわっと緩くしすぎたという自覚があって、恐らくあまり根張りも良くなく最近まで緩慢な生育を見せていました。冬場の日照不足もあり長い間ピッチャーが無かったので、しばらく栽培スペースの後ろの方から引っ張り出されることもなく過ごしていましたが、ある日ふいに目をやると、ミズゴケの上に丸々とした可愛いピッチャーの蕾を膨らませていたのを発見したのでした!

雨風吹きすさび、晴天時には日光の遮るものの殆どない尾根や斜面に本種は晒されて生育しているので、環境に慣らし根をきちんと定着させてあげれば、ある程度ワイルドな環境にも耐性を持つようになるのだと思います。

あまり弄りすぎると良くない印象があるので、置き場が決まったらあとは放置!という若干雑な感じの方がかえって良いような気さえしてきます。


N. sibuyanensis {Guiting-Guiting, Philippine, 1400m}
(Best Carnivorous Plants)

開いたばかりのピッチャーは、ピンク色の本体に乳白色の襟がなんとも可愛いものでした。本種はピッチャーを用土に埋もれるように作ることが特徴的で、それは地際の虫を獲物として捕らえるための仕様であるとか、強風吹き荒れる露出した自生環境で草体を支えるためだとか言われています。



それからやや月日が経過して、襟がやや色づき始めた頃のピッチャーです。

この株は山田食虫植物農園さんより入手したのですが、購入時になるべくピッチャーが丸そうな雰囲気のものを選んだつもりですので、なかなかいい形のピッチャーを付けてくれたと思います。縦長のものからぺしゃんこのものまで、色だけでなく形状のバリエーション豊かなのも本種の好きなところです。

やや由来の古いネペンテスの園芸品種の情報をいつも調べるときにお世話になっているMarcello Catalano氏のデータベースを見ると、BEやAW, EP(Exotica Plants), MT(Malesiana Tropicals)のクローンはどれもOriginの欄に1,200-1,500 mと表記されているのに対し、BCPのものだけ1,400 mと表記されている辺りを見ると、これらの業者によって古くから提供されてきたクローン(オリジナルはドイツ系のフラスコ?)とは由来が異なる可能性がうっすらと伺えます。確かに、上記業者の昔ながらの(?)N. sibuyanensisはやや縦長のピッチャーを付ける個体が多いように思われる一方で、BCPのN. sibuyanensisはしばしばペシャンコにうずくまったピッチャーを見るような気もします。

また、この個体について言えば、よく見るとラベル表記は

N. sibuyanensis {Guiting-Guiting, Philippines, 1400m} BCP

となっており、同じく山田農園さんでよく見かける

N. sibuyanensis {Guiting-Guiting, Philippines, 1400m} [BCP ID# N110, N299, N300]

というクローンナンバー表記が見られないことに最近気づいたので、これは培養クローンではなく実生個体の可能性があると思っています。実生だといいなぁ。

Nepenthes sibuyanensis (BCP)
Pitcher color changes as it ages


本種もピッチャーの経年変化を楽しめる種類です。はじめの頃ほのかなピンク色だったピッチャーは、その後黄色っぽいベースに濃い襟の色という渋めの見た目に変化しました。先日のMTの'Red Pitcher'とは違う色味の個体であることがすぐに分かります。

そして最近の様子。


もう一つのピッチャーも完成しました。暑がっているのか、かなり小ぶりな仕上がりとなりました。

また、別の蔓も伸ばして先端を苔に埋もれさせていて、こうなればこの先端も膨らみそうです。蔓の先端が接地して、やや暗がりに隠れることがピッチャー形成のトリガになっているような節があります。


植え付けが下手だったのでミズゴケに空隙がありすぎて根張りが促進できていない可能性があり、また管理も大雑把なので草体はなかなか大きく出来ていません。いつか折を見て、鉢から抜きミズゴケを詰めて植え直したいと思います。最近時間がなかなか取れていないので、いつになるのか分かりませんが…。

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