兵庫県立フラワーセンターのウツボカズラがギネス記録更新

By b.myhoney - 9月 08, 2022

遡ること8月20日に、兵庫県立フラワーセンターのN. truncataが"Longest Nepenthes pitcher trap"(最長のネペンテスピッチャートラップ)という項目でギネス世界記録に認定されたことが話題になりました。その記録なんと55.5 cm!

ちなみにこれ以前の世界記録は英国キュー王立植物園(Royal Botanic Gardens, Kew)による2020年のもので、同じくN. truncataの43 cmでした。なんと、それを3割近くも更新する快挙!

兵庫県立フラワーセンター(HFC)のネペンテスは、我が国のネペンテス栽培コミュニティが誇る食虫植物の神こと、土居寛文氏(HFC花づくり事業課次長)が手塩にかけて世話をしていることで、常に最高のコンディションが保たれています。私は一度もHFCを訪れたことがないのですが、TLに次々と流れてくるHFC訪問報告を見ては「ぐぬぬ…。」と嫉妬する日々です。ぐぬぬ…。

昨今はなかなか遠出できませんが、土居さんがご在籍のうちに一度は訪れたい。

Longest Nepenthes pitcher trap

Who
    Hyogo Prefectural Flower Center
What
    55.5 centimetre(s)
Where
    Japan (Kasai, Hyogo, Japan)
When
    20 August 2022

The longest Nepenthes pitcher trap measures 55.5 centimetres (1 ft 9.8 in) and was grown by Hyogo Prefectural Flower Center (Japan) in Kasai, Hyogo, Japan, on 20 August 2022.

The Nepenthes truncata has been alive for about 45 years and has been cultivated at the Hyogo Prefectural Flower Center for about 35 years.

最長のネペンテスのピッチャー・トラップは55.5センチメートルで、2022年8月20日に日本の兵庫県加西市にある兵庫県立フラワーセンターで育てられたものである。

そのNepenthes truncataはおよそ45年間生きており、兵庫県立フラワーセンターで約35年に渡って栽培されてきた。

 

フラワーセンターのトランカータの巨大さを事前情報としてご存知の方ならまだしも、何も知らない方からして見れば植物が55センチメートル超えの長さのトラップを形成しているという事実にとても驚くだろうことは容易に想像できます。「肉食の植物」というおどろおどろしさと相まって、インパクトは抜群だと思います。

やはりこの世の中「デカい」ということは正義でして、実際に兵庫県のプレスリリースをはじめ、朝日新聞デジタル読売新聞オンライン神戸新聞サンテレビなど数多くのメディアに取り上げられる話題性の高さ。一般への食虫植物の認知促進に寄与するインパクトがあったと言えるでしょう。

朝日新聞デジタルの紙面

読売新聞オンラインの紙面

どちらの紙面も土居さんの想いが伝わる記事となっており、また今回の偉業に繋がった秘訣と科学的側面にそれぞれしっかりと触れている良い記事だと思います。

カナダの食虫植物研究会(Carnivorous Plant Society of Canada)のフォーラムなんかにも取り上げられていました。このスレッド中では、へりっこさんのYoutubeのリンクも貼られています。 

New world record of the longest Nepenthes pitcher! 

そして何より、今回の世界記録達成の当事者である土居さんのコメントがいいなぁと思いました。


氏の栽培技術はもはや説明する必要のないところだけど、このようにご謙虚な姿勢で感謝を忘れない姿勢が多くの栽培家から慕われる土居さんの人柄を体現しているのだと思いました。

土居さんの仰るとおり、日本の栽培品が認定されたという事実が嬉しいことですし、我々にとっては誇らしいことですよね。

以前の世界記録保持者は?

今回、兵庫県立フラワーセンターが記録を更新する以前は、英国ロンドンが誇る天下のKew Gardensが最長ピッチャーの記録を保持していました。同じくネペンテス・トランカータの43 cmがその記録でした。

Kew Gardensのツイート。
僕はこのツイートを見た瞬間、絶対HFCのほうが大きいじゃん!と思った

登録が2020年の7月ということで、2年ほどで上回られてしまったということになります。

ギネスの公式ページは既に兵庫のものに上書きされてしまって、今となっては見ることができませんが、たまたま更新される前の文章を控えてあったので参考までに記しておきます。

Longest cultivated Nepenthes pitcher trap

Who
    Nepenthes truncata, Royal Botanic Gardens, Kew
What
    43 centimetre(s)
Where
    United Kingdom ()
When
    15 July 2020
A pitcher growing on a specimen of Nepenthes truncata at Royal Botanic Gardens, Kew, in London, UK, measured 43 centimetres (1 foot 4.9 inches) from the base to the tip of the lid as verified on 15 July 2020.

In the wild, N. truncata is endemic to lowland habitats (sea level up to 1,500 m) in the Philippines and is currently listed as Endangered on the IUCN Red List.

N. truncata is well known for having some of the largest traps among pitcher plants, particularly in terms of length. Most consider the giant montane pitcher (N. rajah) from Borneo to have the largest pitchers of all based on volume, containing as much as 2.5 l (85 fl oz) of digestive juices; one pitcher documented on a wild specimen of N. rajah on 26 March 2011 on the east ridge of Mt Kinabalu in Sabah measured 41 cm (1 ft 4.1 in) tall. Both these species – as well as Raffles’ pitcher plant (N. rafflesiana) of south-east Asia – have been known to trap and consume prey as large as small mammals, such as mice and rats.

Even taller pitchers (albeit narrower) are to be found on certain species of the ground-dwelling genus Sarracenia – some reported to reach as high as 130 cm (4 ft 3 in)!

英国ロンドンのキュー王立植物園にあるNepenthes truncataの個体に生えているピッチャーは、2020年7月15日に確認した際、底面から蓋の先端まで43 cm(1フィート4.9インチ)であった。

野生下において、N. truncataはフィリピンの低地(海抜1,500 mまで)に自生する固有種で、現在はIUCNレッドリストに絶滅危惧種に指定されている。

N. truncataはピッチャープランツの中で最も大きなトラップ(特に長さにおいて)を持つことで良く知られている。ボルネオ島のジャイアント・モンテイン・ピッチャー(N. rajah)は、2.5リットル(85 fl oz)の消化液が入り、体積的には最も大きいピッチャーであると考えられている。2011年3月26日にサバ州キナバル山の東の尾根で記録されたN. rajahの野生個体のピッチャーは41 cm(1フィート4.1インチ)の高さだった。これらの種は、東南アジアのラッフルズ・ピッチャープラント(N. rafflesiana)と同様に、マウスやラットのような小型哺乳類と同程度の大きさの獲物を捕らえ消化することが知られている。

さらに高い(細いものの)ピッチャーは地生種のサラセニア属のある種に見られ、130 cm(4フィート3インチ)!もの高さに到達することが報告されている。

記録としては残念ながら今回更新されてしまいましたが、記録に付随する背景情報の豊富さ・緻密さは流石、キュー植物園だと思わされます(ギネスの詳細はよく知りませんが、恐らく申請者が記述した文章ベースで掲載されるのだと思います)。


…話は戻って、HFCのトランカータ。この個体、何がすごいって、ただ超巨大なだけでなく、非常に美しいんですよね。

ストライプが繊細に入り時間の経過とともに銅色に染まる襟は、とても幅広くフレアで、後部が立ち上がるロングネックが迫力満点です。

この素晴らしい栽培品が公式に世に周知されやすい形で文書化されたことは、とても良いことだなと思います。

……

さて、今回の記事は本ブログの趣旨である栽培品の記録とは違いますが、この国でこの趣味に携わるものとして記録しておくべき出来事だと思い、書きました。

これは様々な品種のネペンテスに言えるそうですが、自生地では巨大になるポテンシャルを持った個体が減ってきているようで、今後そのような「化け物トランカータ」×「土居さん超えの栽培技術」という奇跡のような出会いが起きる可能性を考えると、恐らく今後長きにわたって破られることがないのでは?とも思いますが、もし仮に破られたとしても土居さんが仰るように、関係各所の尽力で記録が公式に認められたということが意義深いことなのだろうと思いました。

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