Nepenthes veitchii BE-3734 'Bario Highland' (Plant 2) 派手じゃなくとも
このブログは不定期更新で、大体いつも1週間~2週間に1記事というのが定例のペースとなっているのですが、ときどき不意に1日おきとかの頻度で更新されることもあるので全く油断なりません(?)
写真を用意して文章を書いて、という作業はある程度時間がかかるもので、とにかく忙しい現代人、コスパだけでは不十分でタイパも追い求める生活の中でtime consumingなブログサービスが衰退しSNSへ移行したのももはや必然的な流れなのは自明です。SNS自体も文章ベースから写真、動画と、単位時間あたりの情報が多い(≒時間が掛からない)サービスに人々が流れています。
それでもブログを書くのは、まずは自分のためという側面が大きいです。調べたり学んだりしたこと、あれこれ考えたことやその時々に感じたことなどをアウトプットする場としてです(怠け者なので、何かモチベーションがないと調べたり勉強したりしないので)。飽き性でなかなか続かない自分にとって、継続するということにとても大きな意義があります。
ということで、せっかく時間を取れたので今日も記事を書きます。他にも記事にしたい株や話題はあるのですが、仕事も私生活も忙しいフェイズに入っているのでそれらは順を追って。
N. veitchii BE-3734 'Bario Highland' grex-1 (Borneo Exotics) |
スリランカのBorneo Exoticsがリリースしているバリオ産N. veitchiiの定番的な品番がBE-3734です。多数クローンからのアソートで、両親にバリオ産の個体を使用。母親はオール黄色系、父親はピンク色のストライプ個体。両親から想像できるように、子孫もオール黄色からピンクっぽいストライプ個体まで幅広い個体差があります。
余談ですが、数年前までBEは両親ともに赤いストライプ個体(Nepenthes veitchii with red-striped peristome)と説明していたようで、現在公開されている両親の写真を見れば母親についてはそれが明らかな誤りであることが分かります。(昔は両親ともストライプ個体であったなら良いのですが、わざわざ後から片親をイエロー個体にして再交配する意味もないですし、最初からイエロー✕赤ストライプだったのでしょう。)
とは言え、私は個人的にはこのリリースの個体群がまあまあ好きです。最初のリリースからそれなりに時間が経っていますが、まだそこそこフラスコ内には個体が残っているようで、色形が様々なクローンが見られます。
ストライプの無いイエロー個体もそれなりに高い割合で見られますし、最近、海外で盛んに作出されているN. veitchiiのように真っ赤なボディや派手なストライプなどのカラフルさが際立つということもありませんが、このボディの控えめな色味やリボンのように上品なストライプが個人的には嫌いではありません。
BE-3734は成熟するとかなり丸くなる個体がしばしば見られますし、実生ではなくTC(Tissue Culture, ネペンでは無菌播種を指すことが多い)苗で大量生産可能なので安価であり、個体差も楽しめるとあってなかなか良い品番だと思います。'Candy Dreams'のような派手さを持った個体が出ることはありませんが、味わいのあるバリオ産N. veitchiiです。
前回の記事↓
bijou nepenthes: Nepenthes veitchii BE-3734 'Bario Highland' (Plant 2) 調子が良さげ
において完成した袋は、エージングによってゴールドというかブラウンの襟として成熟しました。襟が巻いて固まり、フレッシュな頃に比べてややトゲトゲと尖った印象を与えています。
こういう渋い色合いも人生の酸いも甘いも知り尽くしたイケオジ感あってよいですね←
この株はもっと小さかった頃からずっと3号サイズの小さめのスリット鉢に植えています。それでも根詰まりや生長の鈍化を感じることなく、至って順調そうです。これは、バリオ産の生育特性によるものではないかと感じています。
私は、バリオ産として市場に導入されているN. veitchiiには大きく分けて2つの系統があると思っています。
1つは、ケラビット高原のバリオ村周辺にのみ自生する丸形の袋をつける、いわゆる典型的なN. veitchii 'Bario'。茎は地を這うように横方向に伸び、絶対に樹を登りません。かつてバリオエンシスとも呼ばれたバリオ産N. veitchiiは、種の中でやや異端的な見た目と生育特性を持ちます。
もう1系統は、大きく拡がるフレアな襟や比較的縦長のピッチャーなど、バリオ産以外の一般的な高地性N. veitchiiによく似た見た目をしたもの。こちらはかつてMalesiana Tropicalsが'Bareo'表記で販売していた系統が典型的です(BareoはBarioの表記揺れだと思われます)。大きく拡がってあまり後ろに巻き込まない襟は樹の幹を掴むのに適した形状をしていて、登攀性の地生種(高地性N. veitchiiに多い)や着生種(低地性N. veitchiiに多い)によく見られるピッチャー形状です。この系統は上へ向けて伸びる傾向があり、上述の地を這う典型的なバリオ産と明確に違う生育特性を示します。
Malesiana Tropicals(MT)のN. veitchii (Bareo) NE-32C MTのHPより |
育てていて感じるのは、前者のバリオ産はあまり根からの水分補給に依存しない印象があり、小さめの鉢でやや乾き気味に管理すると調子良いです。対して、地生の高地性N. veitchiiにそっくりの「襟フレア・ピッチャー縦長のバリオ(バレオ)産」は、根の充実や鉢の大きさが株サイズにより影響しやすい感覚があって、極端な乾燥気味の管理だと案外簡単に調子を崩すイメージです(あくまで個人の感想)。
このあたりの印象の違いについては、もう少し自分の中で自信を深めてからじっくりと書きたいと思います。
袋が開いたばかりの頃。毎度毎度違った見た目の袋で楽しませてくれるので、この段階にある開きかけのピッチャーを見るといつもワクワクしますよね。
暑さの所為か日照不足によるものか、この時期のピッチャーはやや小ぶりになりました。
今回のピッチャーはたまたま襟の後ろ側に障害物があったことで、襟が開いたまま固まりそうで綺麗です。ただ、普段はもう少し襟が後ろに巻く個体です。
普段あまり見られることのない裏側を。
こちらは完全に「見せる側」ではない感ありますよね。裏面は獲物を惹き付けるための作りにはなっていません(笑)
順調に匍匐前進を始めていて、このペースで横方向に面積を拡大していったらすぐに栽培スペースを喰い潰しそうです。募る危機感。HFCの土居さんやY'sの山田さん曰く、ハンギングで栽るとぐるっと鉢を抱き込むように仕立てられるのだとか。
本種の葉は確かに、背面で触れるものを抱き込むようにして葉を展開していきます。これは樹冠などに着生する種や樹の幹を抱くように登る種にも見られる特徴だと思うので、本産地のN. veitchiiは他の産地の個体群と共通する特性を持っているのだと考えられますが、それにしても、なぜここのものだけが地を這うような独自の生育特性を獲得したのかは興味深いですよね。
今日はこのくらいで。
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