Nepenthes veitchii Bario (very big pitcher) x veitchii Bario (stripe peristome) Y's Lab

By b.myhoney - 9月 12, 2022

季節は夏から秋へと移り変わってきて、陽の光の特性も少しずつ柔らかくなってきた感覚があります。植物たちはこの夏の間、二重掛けにした白色の寒冷紗の下で暑さをやり過ごしてきました。

寒冷紗の遮光率を20%と仮定すると、二枚重ねでは0.8 × 0.8 = 0.64で36%の遮光率となる計算です。この夏場の寒冷紗二枚掛けは、遮光もそうですが、メインの意図としてはどちらかというと暑さ対策を意識しています。夏は太陽光のピークエネルギーの意味では強力ですが、夏場から適切に慣らしていれば植物はある程度の強光耐性を身に付けていますし、晴天率も低くなりがちなので案外なんとかなります。

実際、わが家の植物たち(中間地性がメイン)も、暑さでやや生育が鈍ったりピッチャーが小さくなったりはします(日照率の低さも関係?)が、基本的に皆元気です。

風を遮るものが何もない庭の棚上に置いてあるので通気はきちんと取れているせいもあり、また気難しい品種には手を出さずみんな強健で素直な株ばかりということもあって、ピーク時は二重の寒冷紗の下でも温湿度計が42℃/30%を示しているなどは当たり前の光景ですが、それでも特に問題になることはありません。今のところは、培養瓶から出して植え付けたばかりの小さな実生苗を2つロストした以外は、枯らす株もなくここまで来ています。

つくば市における全天成分の波長別日射照度
4月~5月の平均日射照度は、8月のピークを除く夏場に決して劣らない。
[居島・松元, 高層気象台彙報 第73号, (2015)]


実はもっと遮光や葉焼け対策を意識しないといけないのは春先の方で、春先は地表に降り注ぐ太陽光の放射エネルギーの瞬間値こそ夏場には及びませんが、一方で晴天率が高く、日照時間を考慮した実効的な総和としての照度は夏場に匹敵します。また、植物自体も直前の冬場まで長らく低日照モードにあったので、強光への準備が出来ていない植物体に過剰なストレスを与えるには十分なエネルギーを持っています。なので、春先こそ油断することなく適切に遮光することが大事だと個人的には思います。

閑話休題。

N. veitchii Bario [(very big pitcher) x (stripe peristome)] (Y's Exotics)

山田食虫植物農園(Y's Exotics)が販売しているバリオ産N. veitchii同士のクロス。今年導入しまして、まだまだ小さいですがそれなりの大きさにはなってきました。

このN. veitchiiの同種交配については詳しい素性は良く分かりません。Y'sさんのバリオ産N. veitchiiといえばN. veitchii Bario ('Akazukin' x striped peristome)が有名で、あちらは調べれば母親の'Akazukin'の写真が出てくるのですが、このクロスに関して言えばその名前から母親のピッチャーがとにかくデカいということしか分かりません(笑) 父株のstripe peristomeも個体を絞り込むにはありきたりな情報過ぎて…。

山田さんの質問箱に質問した方もいましたが、N. veitchii Bario (very big pitcher)はずいぶん昔の個体なので写真も無さそうとのことで。


入手したばかりの頃は、ピッチャーの上半分がややピンクに色づいている様子も伺えるとは言え、このように特段N. veitchiiらしい特徴のない幼苗でした。

ポリポットサイズのこれぐらいのN. veitchiiは、大抵の場合、襟が特段幅広い訳でもなく、また将来赤くなる系統でもまだまだ緑色をしていることがしばしばです。大きくなるにつれて特徴が顕著になってきます。しかし、稀にこのサイズからバリっと強めのストライプが入っていたり真っ赤な個体が現れたりするので、実生選抜って楽しそうですよね。夢が(あと栽培スペースも同時に)膨らみます。

いつか、自分の手元で苗から育てた中から有望な個体を選んでシブクロスというか同種交配し、そこから個体選別して園芸品種を作ってみたいですね。その前に温室を建てねばですが…。


しばらく育てていると、このようなピッチャーが付きました。やや薄めのボディカラーに、強めのストライプ。



そして次からは、立て続けにこんな感じのピッチャーを付けたのです。淡いピンク色のボディはやや幅の出てきた襟を持ち、そこには疎らなストライプ。

日照や温度などの生育条件によって、本種の発色やストライプ発現の具合などは大きく変わってきます。個体差に依る部分も大きいですが、生育環境による変動も大きい。


そして最近のピッチャー。やや襟の幅が広くなって、少しは本種らしくなってきました。ボディは薄いピンク色。

このN. veitchii Bario (very big pitcher) x veitchii Bario (striped peristome)について、山田さんはフラスコ内で淘汰が進んで既に1個体しか残っていないと見ています。2022年2月には質問箱で以下のように答えています。

 しかし、わが家で育ててみたところ、少なくとも2~3のクローンは残存しているように見えます(実は安かったので5株導入してみた。同一に見えるクローンは分譲しようかな)。

少なくとも、淡いピンク色の個体、赤みが強くストライプが疎らな個体、のバリエーションは間違いなくあるように見え、この株は前者です。

やや丸みを帯びているようにも見えますが、本格的なN. veitchiiらしい姿になってくるのはもう少し株が成熟してから。どのように変化していくのか、楽しみです。


袋付きは良く、葉も旺盛に展開してくれます。夏の暑さも全く苦にせず生長を続けました。 

現在の国内では、最も手軽かつ安価に入手できるバリオ産N. veitchiiの一つであり、赤みを帯びた袋とストライプ襟がこの値段で安定的に入手できるのは、無菌播種・培養のテクノロジーの恩恵だと思います。

別のクローンももう少し大きくなったら記事にして比較を示せるようにしたいなと思いますし、今後どのように大きくなっていくのかも継続的に栽培記録を付けていければと思います。

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