Nepenthes Gaya (ネペンテス・ガヤ) 完成度の高いスターターズ・ネペンテス
みんな大好き†ネペンテス・ガヤです。N. khasiana x (ventricosa x maxima)という交配種。
過去の記事↓
bijou nepenthes: Nepenthes Gaya
bijou nepenthes: Nepenthes Gaya (ネペンテス・ガヤ) 徒長の予兆と上位袋への情意
ホムセンネペンでも侮れない
非常に育てやすく、草体がコンパクトに収まってなかなか徒長せず、寒すぎなければかなりのスピードで葉を展開してくれて、N. ventricosaの血のためかピッチャーの持ちも良い。
真っ赤な斑点模様でコロコロしたピッチャーも、それほど多くは見かけないものです。
ホムセンネペンということで、上級者の人にはややもすれば軽んじられがちな品種かもしれませんが、
私はなかなか優秀な交配種なのではと思っています。2018年のキラウエア火山の噴火で壊滅的被害を受けてその歴史を閉じた、アメリカ・ハワイ州の由緒あるネペンテス・ナーセリー、Leilani Nepenthes(レイラニ・ネペンテス)が作出した交配種であることもロマンを感じる要素です。(ちなみに上のリンク先の記事では、噴火によりナーセリーは10,000株のネペンテスを失ったと書かれています…。)
本種は組織培養入りしているようで、Leilani Nepenthesなき後もフラスコ内で増殖され安価で世界中に卸されている、ということのようです。
SNSなどを見ても、入門者向けとして海外でも広く栽培されている様子が伺えます。国内ではカクタス長田さんがホームセンターや園芸店に卸しており、一般の人にも広く・安価に入手の機会があるのはご存じの通りです。
Nepenthes Gaya (ネペンテス・ガヤ) |
わが家の株はというと、晩秋から冬にかけて屋外の寒さに当てたり、冬場に温室の下段の隅に追いやって陽があまり当たらなかったりと、管理の粗雑さによって前回記事からたいして大きくなっていない気がしますが、ちゃんとした環境で育ててあげれば、もうそれはグングンと生長してくれると思います。
なんとなくですが、寒さに激強のベントリやカーシアナが入っている割にやや冬場に停滞しがち(あるいは日照不足?)なこと、ベントリの血により日照を好むと思われること、根張りが良くて水を好むっぽいことあたりが栽培していて感じる点です。
複数個体ありそう!?
この品種、シングルクローンではなくて個体差がある気がします。最低でも2個体はあるような。ホムセンネペンのマニアではないので的外れかもしれませんが。黄色っぽくて斑点が目立つ個体と、赤が強い個体。まだ培養フラスコ内に複数個体が残っている、ということだと思います。
わが家のガヤは後者の、赤色の面積が広いピッチャーを付ける個体です。
購入するときに、よーく注意するとピッチャーが緑っぽい個体と赤味が強い個体があるので、好みに応じて選んでみるとよいと思います。確か私は、赤っぽい個体を選んだ記憶があります。
ただ、株の生育状況や浴びた日照によってピッチャーの発色は変化するので、確実な見分け方というわけではありません。あくまで参考程度に。
導入当時。やや袋に赤みが差す苗を選んだ。もっと緑色の強い苗もある |
ずっと不思議に思っていたこと
この交配種、当たり前のようにN. khasiana x (ventricosa x maxima)であることを受け入れていますが、よく考えると色々と不思議に感じることがあります。特にN. maximaの正体が怪しいです。
今回はいくつかの側面から、交配に使われたN. maximaの素性について推測してみました。
① 色味
まずはその色味。
黄色の地に赤い斑点が入るネペンは沢山ありますが、この種はそれが逆転した感じでほぼほぼ赤い印象です。N. khasianaはアッパー(上位袋)で確かに赤色が強くなりますが、ロワー(下位袋)はほぼ緑の場合が多く、この種のロワーでの強い赤みを説明しません。
ベントリコーサもこんな配色の個体は見たことないので、N. maxima由来と考えるのが恐らく自然です。
② 襟
N. maximaを交配に用いると、多くの場合、襟に特徴的なフレア形状が遺伝します。しかし、本種の襟は細く一定幅で、マキシマの雰囲気を感じません。
稀に、ベントリコーサの襟の波打ちのようなものは観測されますが、典型的なマキシマの肉厚な襟が現れる様子は、ここまで育ててきた経験でいうと一向に見られていません。
③ サイズ感
皆さんご存じのように、この種は比較的小柄でコロコロとしたピッチャーを付けます。
ベントリコーサは若干寸胴と言えますが、マキシマもカーシアナも標準フォームは縦に長い事が多く、それらを使った交配種も縦長で大き目のピッチャーになるのが一般的です。ましてや、強健親 × (強健親 × 強健親)みたいなこの交配種は、すぐにピッチャーが大型化しても何ら不思議ではありません。
なのに、ガヤは株が大きくなってきてもコロコロのままです。…いったい何故でしょう?
それは、この交配に使用したマキシマがそういうフォームだと考えるのが自然なのでは?(カーシアナは形質学的に幾つものフォームがあるように見えない)
N. maxima = N. oblanceolata仮説
このように考えていったとき、私の頭にはN. maximaのひとつの産地が浮かびました。
イリアンジャヤ(Irian Jaya)の真っ赤なマキシマです。
[参考] surface氏 HP 袋
Nepenthes Maxima
かつてIrian Jayaと呼ばれたニューギニア島の西半分の地域は、現在は西パプア州と呼ばれており、ここには真っ赤な色の寸胴なマキシマが自生するのが知られています。元々バラエティに富むことで知られているN. maximaですが、もはやこれをN. maximaと呼んでいいのか?と悩むぐらい、標準フォームからかけ離れています。
そして、N. campanulataか何かが入っているかのように漏斗型をしたこのピッチャーを付けたとき、産地に関する私の推測は確信に近づきました。
N. oblanceolata (near Wamena, Baliem Valley, New Guinea) by Thomas Gronemeyer (via Wikimedia Commons) |
これはニューギニア島の赤いマキシマの1つのフォームです。これにそっくりではないですか!?
この個体群にはNepenthes oblanceolataという名前が付けられておりますが、現状はN. maximaのシノニムとして扱われているようです。シノニムとは、別の名前で呼ばれているものの、同種を指しているということです。
色味、コンパクトさ(草体もピッチャーも)、翼の間の模様、襟の形状などがなんだかN. Gayaにそっくりです!これがマキシマとして交配に使われているとすれば、上記のいくつかの疑問が全て氷解する気がします。
ということで、偉大なるLeilani Nepenthesがこの交配種を生み出すのに使用したN. maximaは、ニューギニア島のN. oblanceolataに近いフォームではないか、というのが現時点での私の推測です。
おわりに
いかがでしょう?ネペンテス・ガヤの交配親についてここまで考察したブログもそれほど多くないのではないでしょうか?笑
なぜガヤにこれほどの労力を?とお思いかもしれませんが、それは「価格が安いから」「ホームセンターで売られているから」みたいな理由で、なんでも駄物扱いするのは個人的にあまり好きではないからです。その品種の本質を見ていないような気がします。
誰もが容易に入手できるホムセンネペンも、こんな風に観察しながら栽培するとより楽しめるのではないでしょうか。
† 実際、ブログへのアクセスは非常に多い
0 Comments