Nepenthes alata (N. graciliflora) 君の名は。

By b.myhoney - 4月 11, 2022

君の、名前はーー。

わが家には普通の園芸店(コーナン)で買ったN. alataがいます。3芽立ちで1,200円でした。あまり見ない鉢で、この1株しか売られておらず、大手の業者さんで大量に生産された様子では無さそうでした。

N. alata 'Hyotan'?


私の地域では、ホームセンターなどの一般量販店や園芸店で目にする、いわゆる「ホムセンネペン」の代表的なものには、N. alata表記のN. Ventrata (ベントラータ = N. alata x ventricosa)であったり、カクタス長田さんの食虫植物アソートとして目にするN. Gaya*1やN. St. Pacificus*2、N. Miranda*3などがあります。また、最近では(ベントラータではない)本物のN. alataの選別クローン(EP由来と思われる)の狂氣令嬢シリーズや、N. Lady Luck*4などラインアップも豊富になってきた感があります。

bijou nepenthes: Nepenthes x Gaya (ネペンテス・ガヤ) 徒長の予兆と上位袋への情意
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ネペンテスの選択肢の拡大は何も一般園芸店に限った話ではなく、ネット通販やオークションなどで海外ナーセリーの苗が安価で手軽に入手できるようになったこの時代に、なんでまたN. alataなんかを…?

庶民の原種、ひょうたんうつぼかずら

わが国で和名「ウツボカズラ」と言えば、1902年に最初に渡来してきたN. rafflesianaなのですが、「ウツボカズラと聞いて思い浮かぶ原種は何?」と聞かれると多くの場合(若い人には当てはまらないかもしれませんが)、N. alataになると思います。

古くから「ヒョウタンウツボカズラ」とか単に「ひょうたん」と呼ばれ親しまれてきた本種は、挿し木で簡単に増える旺盛さと暑さ寒さへの耐性から、園芸農家により維持・増殖され園芸店などで一般的に入手できたとされます。

N. alata (ヒョウタンウツボカズラ)
兵庫県立フラワーセンター ナショナルコレクションより

株自体の由来が古く素性が不明のため、かつて交配種N. x hybrida (英国ヴィーチ商会:Veitch Nurseryの園芸家John Dominy氏作出。N. khasiana x gracilisとされる)なのでは?とされていた時期もあるようで、国内の植物園などでもN. x hybridaとして管理・展示されている株をしばしば見かける機会があります。現在ではひょうたんうつぼかずらの交配種説は主流ではないように見え、単にN. alataとして扱われています。そもそもN. x hybridaが作出された1800年代は原種の同定すら怪しく、また交配親は明らかにされないことが多かったため、N. x hybridaが本当にN. khasiana x gracilisであるのかすら、現在では知る術がありません(N. x hybridaは既に絶えており、もうこの世に存在しない)。

この辺りの話は、また別の機会に考察して記事にしてみたいと思っています。

ひょうたんにも何系統かある

国内に古くから流通してきた「ひょうたんうつぼかずら」に加えて、「おおひょうたん(または新ひょうたん)」というやや大型の系統もあるようです。

「第1回ネペンテス品評会に参加して」(伊藤嘉規氏)というドキュメントからの文章を以下に引用します。

今回出品した個体は、「おおひょうたん」と呼ばれるやや大型の個体です。Japanese Carnivorous Plant Society(JCPS)食虫植物情報誌、平成17年4月号(通巻第40号、Volume 11-No.2)の16ページに「新ひょうたん」として南総食虫植物園の故越川幸夫氏が紹介しているように、「ひょうたんうつぼかずら」より大きくなります。栽培や増殖について違いは無く、同じ管理でより大きな袋が付くということで生産農家のもとで徐々に切り替わってきたと推測しています。両個体を確実に見分けるためには開花させる必要があり、「ひょうたんうつぼかずら」は雌株と言われるのに対し、「おおひょうたん」は雄株で、出品個体も過去に雄花が開花しています。

わが家の株が「ひょうたんうつぼかずら」あるいは「おおひょうたん」のいずれかだとすれば、「ひょうたんうつぼかずら」の方ではないかと今のところは推測しています。

その理由として、私の栽培技術が不十分なことも大いにありますが、付ける袋はやや小型で、入手した時点でも小さなピッチャーを沢山付けていました。また、ネットの写真を見る限り「おおひょうたん」は袋の赤みが少し強い印象がありますが、この株はグリーンが強いです。直射日光で焼けると少し赤みが差す程度です。

開花まで育て上げて雌花が咲けば、より確実性が高まる感じですかね。

N. alata → N. gracilifloraという再整理

長い間、Nepenthes alataは幅広いバリエーションを持ってフィリピン全土に広く分布する種と考えられてきましたが、2013~2014年頃のMatthew Jebb&Martin Cheek両氏の仕事(リンク①)(リンク②)によりNepenthes alataグループが整理され、種の境界が改めて定義されました。

その結果として、これまでN. alataとして扱われてきた植物の多くは、現在ではN. graciliflora(ネペンテス・グラシリフローラ)に分類されることとなりました。

詳細は文献を参照なのですが、こちらのブログ記事が分かりやすかったので箇条書きの形で(若干意訳の部分もありますが)引用させてもらいます。

The Sibuyan form of Nepenthes graciliflora - Jardinerong Sunog (the Burnt Gardener)
The Sibuyan form of Nepenthes graciliflora 

以下、概略として引用

  • Nepenthes alataに分類されてきた多くの分布記録が、現在ではN. gracilifloraのものになっている。
  • 当然のこととして、N. gracilifloraは多くのバリエーションを持つ形となっている。
  • 分類学的にどれが標準でどれがバリエーションと言えるのかは、the locus classicusの植物(最初の標本が発見された場所の植物。タイプと呼ばれる)を見る必要がある。
  • N. gracilifloraの場合、シブヤン島のGuiting-guiting山で1910年5月にPauala川沿いの標高約1,000フィート(約300メートル)の場所で採取されたもの。
  • シブヤン島のN. gracilifloraは、ルソン島の東部や南部など他の産地のものに比べ下部の丸みが控えめ

シブヤン島(左)とケソン州(ルソン島)(右)のN. gracilifloraの比較
(ブログより引用)

  • 例えばN. gracilifloraとN. mindanaoensisは蓋裏の腺の分布の仕方(単型性と二型性、境界の有無)で区別できるが、N. gracilifloraとN. alataは区別できない。
  • では、N. gracilifloraとN. alataを区別する分かりやすい特徴は何かというと、N. alataにはピッチャーや草体に微細な毛が存在するが、N. gracilifloraは滑らかでほぼ毛がないことである。

Quezon(ケソン)由来のオールグリーンのN. graciliflora
(ブログより引用)
[引用ここまで]

ということで、現在国内に「N. alata」として流通している多くの系統は、現在ではN. gracilifloraに分類されるような気がします。

逆に、N. alataに該当する系統はというと、LuzonのN. alataとして流通しているもの(赤い斑点模様のやつ)などがそうだったりするんですかね。私は育てたことないですが、写真で見る限り微細な毛がピッチャーに生えていてふわふわしてそうな気がします。育てたことないですが。

わが家の株

わが家にある株も、表面に毛はほとんどなくつるっとしていて、下部が丸みを帯びた(bulbous)ピッチャーを付けてくれるなど、N. gracilifloraの特徴に沿っていると言えます。

bulbous base of the pitcher

一番上の写真で数本の伸びていた枝は、挿し木の練習がてら切り刻まれて鹿沼土に挿され、知り合いやら家族やらに譲渡されていきました。

わが家に現在あるのは、根元の小さな脇芽を残したものになります。それでもすぐに茂ってくれて、屋外に放置しているだけでほぼ全ての葉にピッチャーを付けてくれます。

N. alata 'Hyotan'? (currently N. graciliflora)

直射日光に近い強光で育てているためか、なかなか徒長の気配を見せず、節間の詰まったコンパクトな株に仕上がってきています。


上の購入時の写真では枝が伸び伸びとしていますし、濃緑の色の葉に小ぶりなピッチャーを付けていた様子からも、日陰で長い間管理されていた様子が伺えます。購入時期は秋に入ろうかという頃だったので、ひと夏を売れ残った株だったのでしょう、きっと。

ですので、そのように育てれば枝は伸びますが、普通に光に当てて育てると今のところなかなか伸びてきません。葉の展開スピード自体は早いです。


そしてすぐに脇芽を吹きます。生育が旺盛な証拠かもしれません。

そのまま放置すると生長が分散しますし茂るとカオスになるので、これまでなら脇芽を除去していました。ですが今となっては、流通の少ない貴重な株のような気がしてきたので、もう少し育ったら脇芽を挿してみようかと思います。

きっとこの品種なら問題なく挿し木は成功するはず。


冬の間の停滞を打ち破るかのように、これまでで一番大きなピッチャーを付けてくれました。この夏には生長が爆発するかも?

*1: N. khasiana (ventricosa x maxima)

*2: N. ventricosa x biak

*3: N. Mixta (= northiana x maxima) x maximaとする説があるが詳細不明

*4: N. ampullaria x ventricosa

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