Nepenthes adrianii (seed grown) CK

By b.myhoney - 5月 16, 2022

わが家に初めてジャワ島のネペンがやってきました。ドイツのChristian Klein氏(Carnivorous and More)による実生のNepenthes adrianiiです。

N. adrianii, Java, seed grown (CK)

N. spathulataの異タイプのシノニムという扱い

Nepenthes adrianiiは、スマトラ島に隣接するジャワ島において、2004年という比較的最近にAdrian Yusuf Wartono氏により発見された種です。2006年にBatoro氏, Wartono氏とMatthew Jebb博士によりadrianiiという種小名が与えられましたが、正式な新種登録には至っておらず、一般的にN. spathulataのheterotypic synonym(異タイプ異名)として扱われているようです。

スマトラ島のN. spathulata自体は、島の比較的真ん中に近いKerinci湖から、島の南端のTanggamus山まで広く分布し、垂直分布も海抜1,100~2,900 mと非常に幅を持っています。この分布から推測できる通り、N. spathulataは多くの変異(あるいはフォーム)を持ちますが、栽培下に導入されているN. spathulataは緑色のボディに濃色のリップというイメージが強いです。

N. adrianii, Java, seed grown (CK)
juvenile pitcher

しかし本種は、鮮やかな赤色のピッチャーには斑点模様が入り、イエローから徐々に色づいていくリップという個体がよく見られるものです。シンプルで飾り気がないデザインですが、この色合いが綺麗で惹かれるものがありました。

スマトラ島のN. spathulataが30 cmほどにもなる大型種であるのに対し、N. adrianii、より正式にはN. spathulata var. Java?の方は20 cmほどと若干小ぶりなようです[1]。そして、このジャワ島のタイプの方が高温耐性があって栽培が容易だという記述が複数見られました。正直なところ、自生高度や要求温度、そしてスマトラ高山性原種の特性的に、N. spathulataはわが家の選択肢からは早々に外れる原種なのですが、それよりも幾分強健で中間地性的な環境でも栽培できるという触れ込みのN. adrianiiには興味が湧いてしまったのでした。

交雑や遺伝子混入がある?

N. adrianii, Java, seed grown (CK)
this pitcher shape is somewhat round and squat

ちなみにこれはCKの個体群だけかもしれませんが、本種を見ていると時折丸っこい形状のピッチャーを付けていることに気付きました。この形状といい、リップの黄色といい、斑点模様といい、ジャワ島に普通に生息するN. gymnamphoraのエッセンスを感じないこともないなと、このピッチャーを見て感じます。遠い過去にN. gymnamphoraの祖先を取り込むなどのような遺伝子移入があったのかもしれません。

もっとも、(スマトラ島の)N. spathulata自体が他種と広く交雑していると言われており、またN. gymnamphoraの方も諸説あるようですから、N. adrianiiも遠い昔の遺伝子的な混成や現在進行中の交雑があっても何ら不思議ではありません。(ちなみにN. gymnamphoraの自生高度も海抜600~2,800 mと割とオーバーラップしている)

N. spathulataより隣島のN. adrianiiの方が強健で育てやすく暑さに強いという評も、交雑による雑種強勢を獲得していると見れば理解できることです。もっとも、植物分類学者でもなんでもない只の素人の見立てなので、これは何ら学術的後ろ盾はない独り言です。

ちなみに

Nepenthes adrianiiという非公式の名前の読み方ですが、日本語では「ネペンテス・アドリアニー」と読まれることが多いかと思います。一方で英語圏では「ニーペンティーズ・エイドリアーニアイ」みたいな発音が一般的だと思われます。

別に学名は基本ラテン語なので読み方は自由で、好きなように読めば良いと思うのですが、例えば海外の趣味家と交流する際などに伝わらないといけませんので、英語圏の発音も憶えておいて損はないかと思います。

個人的には、日本語読みと英語読みの印象がここまで違う種も珍しいのでは?と思いました。余談ですが。

multiple branch of the spur

本株の距(フタの上部にある突起)は複数本に分岐した特徴的なもので、これは自生する島こそ違いますがN. ramispinaみたいだなという印象を受けました(あちらはスマトラ島に隣接するマレー半島の原産)。

【参考】:ブログ「食虫植物のクロニクル」Nepenthe ramispina #1
Nepenthes ramispina #1 

N. ramispinaの専売特許を奪ってしまったような形(ramispina=分岐した距の意)なのですが、この特徴的な突起はN. spathulataなど関連する種にも見られるんですかね?と思って調べてみたところ、N. spathulataにもあるようでした。N. spathulataは人気の面ではかなりマイナーと言える種で、特に原種を育てている人はそれほど多くなくサンプル数が少数なのですが、スマトラ島フォームと思われるグリーンなN. spathulataにもあるのだと思います。これも余談。


次のピッチャーの蕾も順調に大きくなっており、新芽も展開中です。わが家に来たばかりのネペンテスはしばしば体調を崩すか生長が少しの間止まるのですが、この株は止まらず動き始めたところを見るにやはり育てやすそうです。

次の山場は、無冷房で夏場を越すことができるのか、ですかね。そのときに枯死していなければ(笑)また記事にしたいと思います。

[1] "Species Profile – Nepenthes "adrianii"" [Bourke, G., Captive Exotics Newsletter 2(1): 4, (2012)].

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