Nepenthes boschiana BE-3448
本日記事にするのは、個人的にとても好きな原種です。
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N. boschiana BE-3448 (Borneo Exotics) |
本種の記載は1839年とかなり早い時代であり、栽培下にも割と昔からMalesiana TropicalsやBorneo Exoticsの培養クローンやExotica Plantsの挿し木苗などが流通していたにもかかわらず、世間的にはそれほど認識、あるいは評価されていないような気がしています。
種小名のboschianaと言えば、むしろピッチャーの下部がぼこっと膨らんだN. alata var. boschianaと呼ばれるクローンの方がより身近にイメージできる人が多いかもしれません。
蛇足ですがこのN. alataのクローン、恐らくそのグラマラスなピッチャー形状がN. boschianaの下位袋に似ているために、名門Longwood Gardensが誤ってN. boschianaとラベリングしたことに由来すると言われています。Exotica PlantsはこのN. alata var. boschianaのクローンをN. alata (f)という名前で過去に販売しているほか、最近ホームセンターや園芸店などで見かける機会のある「狂氣令嬢 ヒスイ」もこれを挿し木増殖したもので同一クローンだと思われます。蛇足でした。
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N. boschiana (BE-3448) |
Nepenthes boschianaは、ボルネオ島の最南端、インドネシア領の南カリマンタンに位置するメラトゥス山脈(Meratus Range)内に2つの産地を持つ中~高地性原種で、大きな括りではN. maximaやN. stenophylla等の仲間に属します。
産地等については以前の記事にもまとめてあります。
bijou nepenthes: Nepenthes boschiana BE-3448本種が自生するGunung Sakumpang(Gunungは山という意)とGunung Besarは高度に差があるため、本種の自生高度は750 - 1,800 m程度と幅を持った表記となります。
N. boschianaは基本的に強健で育てやすく、暑さにも強い原種とされます。特に、このBE-3448という品番はG. Sakumpang産 x G. Besar産という異なる産地同士の交配であり、生育がとても旺盛です。ひょっとすると、雑種強勢のような効果を得ているかも知れません。
というのも、G. Besar産のものは、かつてN. borneensisという別種として扱われていた歴史があり、自生高度の違い以外に見た目にも微妙な差別点があるため、遺伝子的に差異を持っているのではと考えています。
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N. boschiana (BE-3448) 上の写真のピッチャーの襟が巻いて固まったところ |
記載者のKorthals氏が「不毛で、開けた、石のごろつく場所」と自生地を記述したように、石灰岩地帯で周囲の草木の生育が抑制された土地で見つかるようです。ですので、暑さに強いとは言え、栽培下では用土を水はけ良く植えて、根を蒸れさせないように意識するのがなんとなく良い気がしています。
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N. boschiana (BE-3448) |
それまでの赤みが差した茶色っぽいピッチャーと少し異なり、次のピッチャーはやや緑っぽい地に黒みがかったまだら模様という、どこかN. fusca (N. zakriana)やN. vogeliiを想起させるカラーリングになりました。
このように、株ごとの個体差だけでなく、生育途中にも様々な顔を見せてくれるので面白い品種だと思います。
よくよく観察するとN. boschianaには葉が丸みを帯びたものからやや細長いものまで個体差があるようで、この株はやや細長いもののようです。葉柄の部分がしっかりと存在するタイプの葉です。
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N. boschiana (BE-3448) |
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N. boschiana (BE-3448) |
次のピッチャーと、襟の雰囲気の経時的な変化です。
N. boschianaが交配親として優れているのは、ネペンテス交配のトップランナーExotica Plantsが古くよりその多元交配に重用してきたことからも明らかで、それは強くて生育旺盛であり、ピッチャーが大きくなるなどの理由もあるのですが、上の写真にはその他の大きな要因が見て取れます。
それは、この幅広い襟とカラフルさです。
この幅広い襟は子孫によく遺伝して、ときにはエリマキトカゲのように広がった襟の子孫を生みます。そして、ピッチャーは基本的に赤茶色ですが、中には真っ黒な色合いを見せる個体もあり、多くの場合その色合いやまだら模様の柄が子孫の見た目に影響します。
このような性質から、本種を使った、豪華で見応えのある雰囲気の襟元を持つカラフルな交配種がこれまで様々なナーセリー、個人により作出されてきました。
特に、上に述べたような特徴からN. veitchiiやN. lowiiなどとは特に相性が良いようで、ハワイのLeilani Nepenthesの名交配、N. 'Song of Melancholy' (親は公開されていないが、N. boschiana x (spectabilis x veitchii)と考えられている)や、Exotica PlantsのN. LVBVMV (= N. [(lowii x veitchii) -yellow x boschiana] -purple x [(veitchii x maxima) x veitchii H/L]という、タイの首都バンコクの正式名称の次に長い名前(嘘)の交配種)など、これらの親を含む交配種の成功例には枚挙に暇がありません。
bijou nepenthes: Nepenthes [(lowii x veitchii) - yellow x boschiana] - purple x [(veitchii x maxi(文字数このように、単体で見てもカッコよく、交配に使われても優秀で、強健で育てやすい本種は、もっと評価されて良いのではと個人的には思っております。
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N. boschiana (BE-3448) |
最新のピッチャーは、またこれまでと少し違った雰囲気となりました。ネペンテスに一般的に見られる傾向として、株が成熟すると襟が豪華になっていくというものがありますので、成長とともにどのような姿を見せてくれるのか楽しみです。
実はこの冬に忙しさに追われる中で、一度だけ短時間ながら温室内を45度以上にしてしまい、それによってややダメージを受けた植物もいます。
この株は上段の方にいたので、高温をまともに受けた株の一つなのですが、ご覧の通りやや葉を傷めてしまっています。とはいえ、枯れることなくその後も動いており、上でも述べたように高温耐性は高地性の枠に収まっていない感があります。
もっと管理をこまめにしてやらねばならないと反省した次第です。
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