世界で最も高価な食虫植物 (Nepenthes 'Leviathan')
今日は少し毛色を変えて、食虫植物にまつわる世界記録の一つを紹介します。
以前、こちらの記事でもわが国の兵庫県立フラワーセンターが「最長のネペンテスピッチャートラップ」という項目でギネス世界記録に認定されたことを紹介しました。
bijou nepenthes: 兵庫県立フラワーセンターのウツボカズラがギネス記録更新
遡ること8月20日に、兵庫県立フラワーセンターのN. truncataが"Longest Nepenthes pitcher trap"(最長のネペンテスピッチャートラップ)という項目でギネス世界記録に認定されたことが話題になりました。その記録なんと55.5 cm! ちなみにこれ以前の世界記録は英国キュー王立植物園(Royal Botanic Gardens, Kew)による2020年のもので、同じくN. truncataの43 cmでした。なんと、それを3割近くも更新する快挙!
今回紹介するのは「ピッチャーの長さ」ではなく「値段」が世界一とギネスにより認定されている記録です。
ギネス世界記録が認定する、これまで最も高値で取引された食虫植物は、米・コロラド州の有名な趣味家Jeremiah Harris氏と山田食虫植物農園の山田さんにより共同で作出されたNepenthes rajah x peltataという交配種で、Nepenthes 'Leviathan'と名付けられています。
2019年7月に販売された雄の個体は、オークション上で$4,500(当時のレートで約49万円、円安が進んだ現在では約60万円)の高値で販売されました。
最も高価な食虫植物(ギネスワールドレコード)
以下、ギネス世界記録の公式ページから。Most expensive carnivorous plant
Who
Nepenthes "Leviathan"
What
4,500 US dollar(s)
Where
United States (Colorado Springs)
When
July 2019
The most expensive carnivorous plant known to have been sold to date is a hybrid Nepenthes pitcher plant (N. rajah x N. peltata), named "Leviathan", which was developed by carnivorous plant grower Jeremiah Harris of Colorado, USA. The male-flowering specimen sold in July 2019 to an anonymous buyer for $4,500 (£3,540).
Harris first hybridized "Leviathan" in 2008. A total of six seeds from the hybrid germinated and four survived to maturity. The name comes from the giant biblical sea monster and is also a play on his brother's name (Levi). During the same transaction, the buyer also purchased a specimen of N. undulatifolia for $900. Harris founded the Colorado Carnivorous Plant Society in 2003 and has one of the largest private collections in the USA.
Another notably expensive Nepenthes plant sold in 2020. A brightly coloured selection of the tropical pitcher plant N. veitchii - grown by Drew Martinez of Carnivero in Austin, Texas, USA - sold to an undisclosed buyer for $3,500 in a sale facilitated on Instagram.
Plants in the genus Sarracenia also occasionally command extraordinary sums. The priciest public sale of Sarracenia was a division of Sarracenia "Saurus". This specimen was developed and grown by the master hybridizer Phil Faulisi of California, USA, who sold the plant on eBay for $2,325 (£1,794) on 4 September 2017.
It must be noted, for those hoping to make a quick profit trading in carnivorous plants, that these were exceedingly rare, valuable selections. Typically, carnivorous plants can be bought/sold for $5 to $200.
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現在までに販売されたことが知られている中で最も高価な食虫植物は、「リヴァイアサン(レヴィアタン)」という名前のハイブリッド・ネペンテス・ピッチャープラントで、米国コロラド州の食虫植物栽培家Jeremiah Harris氏により作出されたものである。雄の個体は、2019年7月に匿名のバイヤーに4,500ドル(3,540ポンド)で落札された。
Harris氏は2008年に初めて"Leviathan"を交配した。この交配から合計6つの種子が発芽し、4個体が成熟まで生き残った。名前は聖書に登場する巨大な海の怪物に由来し、また彼の兄弟の名前(Levi)にもかけたもの(シャレ)である。同じ取引において、そのバイヤーはN. undulatifoliaの個体も900ドルで購入している。Harris氏は2003年にコロラド食虫植物学会(the Colorado Carnivorous Plant Society)を設立し、米国において最大級の個人コレクションを所有している。
2020年には、もう一つの極めて高価なネペンテス植物が販売された。米国テキサス州オースティンのCarniveroのDrew Martinez氏が育てた、鮮やかな色合いで選別された熱帯性ピッチャープラントのN. veitchiiが、インスタグラム上でのセールで3,500ドルで非公開のバイヤーに販売された。
サラセニア属の植物もしばしば非常に高価がつく。サラセニアで最も高価だった公開販売はS. "Saurus"の一派である。この個体は米国カリフォルニアの交配マスター、Phil Faulisi氏により作出・育成されたもので、2017年9月4日にeBay上で2,325ドル(1,794ポンド)で落札された。
一方で、食虫植物の取引で手早く利益を上げようとしている者にとっては、これらの植物は極めて希少価値が高い選択肢だったことに留意する必要がある。我々のウェブサイトに記載されている記録はすべて現時点で最新のものである。レコードタイトルの全てのリストは、我々のレコード・アプリケーション検索を利用してほしい(アクセスには登録とログインが必要)。
以下のコメントは、この記録の以前のホルダーに関連する可能性がある。
N. 'Leviathan'について
(恐らく)Jeremiah Harris氏所有の雌株のN. rajahに、日本の山田食虫植物農園(山田眞也氏)のN. peltataの花粉を交配させた種子を蒔いて、発芽した6苗から4個体が成熟。
この経緯から伺えるように、N. 'Leviathan'は特定の個体に付けられた栽培品種名(cultivar name)ではなく、特定の親同士の交配による子孫群に付けられたgrex nameであり、合計4個体が存在するということです。
'Leviathan'の名前は旧約聖書に登場する海の大聖獣(日本語ではリヴァイアサンやレヴィアタンなどと呼ばれる)にちなみ、また彼の兄弟の名前(Levi)にも掛けたという洒落のきいた名前です。袋の大きさと、見た目から放たれる異様な圧力をよく表した名前だなと思いますね。
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Nepenthes 'Leviathan' (Jeremiah Harris氏のFacebookより) |
両親ともに大型になる品種ではありますが、特にネペンテスの王様N. rajahが母株だけあってとにかく大きなピッチャーですね。
それと、N. rajah、N. peltataともに、交配した子孫に幅広い襟が遺伝しがちな原種であり、そのような原種同士を掛け合わせたことで、周辺で波打つほど有り余っている豊かな襟を持つようになっていることも特徴です。2008年作出時点でこの両親のチョイスは慧眼だと個人的には思います。というか、そもそもN. rajahを使った交配種としては先駆け的な交配種です。
Jeremiah Harris氏のインスタグラムより |
花粉親として使われた山田さんのN. peltataは(当然ながら)雄株であり、またJeremiah氏がインスタグラムで公開している、過去に山田農園で撮影したと思われる写真も考慮すると、父親の個体はN. peltata 'Red Phantom'と呼ばれる赤系の系統なのかなと思います。
ちなみに、Jeremiah氏本人が自身のYoutubeにてN. 'Leviathan'を紹介していますので興味のある方は。高級なコーラ笑
非公式な記録も!? 拡大を続ける海外マーケット
ギネスの文中にもCarniveroが販売したキャンディカラーのN. veitchiiについて触れられているように、高額な株の販売というのは最近しばしば行われているのではと感じていて、それは公式記録としては表れていない可能性があるなと感じています。
例えば、高名なN. veitchii 'Candy Dreams'などはこのレンジ帯の価格で売買されていてもおかしくないと思います(実際に、N. 'Leviathan'の倍以上の高額で販売されたという情報もあります!!)。
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Redditのr/SavageGardenより |
日本ではそこまで感じないかもしれないですが、海外では恐らく食虫植物栽培人口はどんどん増えているのではと思われます。
インスタグラムなどのソーシャルメディアでインフルエンサーが素晴らしい株を公開して、多くのフォロワー達にインスパイアを与えて市場が活発化しているような印象があり、例えばExotica Plantsによる傑出した交配種や、それらをベースにした二次、三次作出の品種が欧州や米国などを中心に次々と作出され、品種改良が進行しているような感覚があります。
今後、例えばN. villosaやN. edwardsianaなどのレアで人気な品種を使った交配種の傑出した個体が成熟し、多くのSNSユーザーの目に触れる機会が増えてくると、それらもN. 'Leviathan'のような価格帯で売買される例が増えてくるんじゃないかなと個人的には思っています。
この偉大な品種のギネス世界記録が塗り替えられる日は近いうちに来るんでしょうかね。
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