ネペンテスの根腐れへの対処/バイオゴールド バイタルを使ってみた
特にこれと言って加湿をしていないわが家の環境は、新規導入する株にとって、それまで生育していた環境よりも過酷な環境である場合がほとんどです。そのため、新入りのネペンテスは導入して1, 2ヶ月は動きを止めたり、古い葉やピッチャーを枯らすなどして新しい環境への適応を図ることがほとんどです。
しかし今日は、その範疇を超えて調子を崩してしまった株の復活ストーリー(?)を書いてみたいと思います。
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N. veitchii Candy x Candy (Christian Klein) |
これは、ドイツのChristian Klein氏が保有する雌雄のN. veitchiiの優良個体を交配した実生株、N. veitchii Candy x Candyです。
赤いボディにキャンディストライプの入った母株と父株の写真は、グーグル先生に尋ねれば画像が出てくると思います(例えば、Tom's CarnivoresのCK訪問記のブログ記事などを参照)。
開封するとすぐに葉が萎れてしまった
本株の導入は昨年の初夏です。あまり国内で流通することが多くない品種なので、見かけたときにはすぐに確保しました。
そして、届いた荷物を早速ウッキウキ気分で開梱して、やや乾燥した空気の環境に数時間置いたところ、途端に葉がしおしおに萎れてしまいました。これはそれまでに経験したことのなかった予想外のことで、結構驚きました。
一般的に、長時間密封されて暗状態で長旅をしてきた海外からの輸入株や、培養ビン内の無菌苗など、外気に触れることなく高湿度下で過ごしてきた株を植え付ける際などは、しばらくの間ビニール袋で覆うなどして養生し徐々に環境変化に馴れさせる(順化/馴化:じゅんかという)手順を踏むことはごく普通です。
しかし、植え付けられてしばらく育てられていたであろう株がこのような萎れ方をすることは想定外でした。上の写真は到着した翌日に撮影したものなのですが、葉がしなしなとしている様子が伺えます(これでも前日よりは持ち直した方です)。
そして、よく見るとN. veitchiiにしては葉が薄く、柔らかい様子が感じ取れると思います。
想像するに、とても湿度が高く保たれた室内環境でこれまで維持されていたのだと思われます。このような環境では、乾燥ストレスに対する応答で植物体をがっしりと作る、という必要がないのです。
そして、もう一つ気になることがありまして。
それは用土の通気性です。保水性のありそうな、長繊維ピートモスのような有機質メディアで植えられていますが、N. veitchiiの好む根回りの通気性(≒通水性)が心配になります。
見ると、葉は4枚しか維持しておらず、健康な状態であれば結構長持ちするN. veitchiiの下葉がこの株では枯れ落ちていて、根回りの状態が気になります。いわば、「根腐れ」になりかかっている状態だと思われたのでした。
これらの観察から、「葉が軟弱でもともと乾燥に慣れていない」+「根に問題があり吸水が十分に追い付かない」の合せ技により、既に栽培されていた株が開梱とともに萎れるという本種ではなかなか異例な状態がもたらされたのではと仮説を立てました。
根への酸素供給不足で、植物は窒息状態に
植物は葉の気孔を通じてガス交換をしていることは小学校の理科で学習したことだと思いますが、根を構成する細胞も呼吸をしており、冠水などで長い時間根回りに水が停滞するような状況に陥ると、途端に根は酸欠状態となってしまいます。
その、いわば「窒息」状態が長く続くと、やがて根を痛めてその機能を失ってしまうため、植物は下葉を落としたり勢いが衰退したりという応答を見せます。この株も、そのような状況に陥っているのではという見立てでした。
根がどちらかと言えば繊細な部類に入るN. veitchiiにおいて、この兆候はとても嫌な予感がしたものです。
というのも、一度根をやってしまうと、N. veitchiiは再び動き出すのに時間がかかることが多く、中にはそのまま枯死するケースもあります。(過去に一度、ほぼ確実に根を傷めた状態でやってきたN. veitchiiが、そのまま為す術もなく枯れていった経験があります。)
ですので本種に限って言えば、このような場合、もはや根を諦めて挿し木してしまう方が良いケースが多かったりするのですが、この株の地上部の体力から想像するとそれも成功するか怪しいという苦しい状況です。
待つか、植え替えるか、切って挿すか。
迷っているうちにそのまま1ヶ月程度経ちまして、この株は動き出すどころかどんどん状態は悪化していき、緑色の部分のある葉を2枚ほど残して他は全部枯れ落ちてしまいました。根に問題を抱えているN. veitchiiは、そのまま待っていても恐らく症状は改善しないと思われたため、ギリギリのタイミングだとは思いますが、一か八か植え替えを実行しました。
根腐れに近い状態にあったとすると、植え替えるメディアは水持ちが良く乾きの遅いミズゴケではなく、鹿沼土などの砂利系用土の方がたぶん良いだろうな、という気はしました。
しかし、これまで柔らかいメディアに植えられていた軟弱な根は、砂利系用土に適応する時間が掛かるので、それも心配で。過去にミズゴケ→鹿沼と植え替えをした別の株が動き出すのにまあまあ時間を要した経験もあり、ビビり倒した結果としてミズゴケを選択しました(笑)
ミズゴケは柔らかく、水を適切に加減さえすれば通気性が維持されるので、あとは傷んだ根に優しく寄り添ってくれ!と半ば祈る気持ちでの決断でした。
いのちは風前の灯火
植え替え後、1ヶ月半。
さらに葉の枯れ込みは進み、残すは最新の葉1枚のみという状況になりました。絶体絶命です。しかしここからはあまり葉の劣化は進行せず、なんとか食いとどまっている様子。この1枚の葉に全てを賭けているようです。
その姿はまるで、吸水機能をほぼ失った根のために、地上部からの蒸散を抑えるべく葉の表面積を必要最小限に留めながら、かつ枯れた葉から巻き上げた養分や以前よりも少なくなった光合成生成物を根の充実に全集中しているような必死さが伝わってきて、私は涙を流しそうになりながら(全然流していませんが)見守りました。
そこからさらに1ヶ月ほど。よーく新芽部分に注目してみてください。先ほどの写真とよく見比べないと分からないですが、新芽が挟まっている葉の付け根部分(葉柄)がやや広がり、新芽が立ち上がろうとしている雰囲気があります。
これはひょっとして、微かに動き出そうとしている!?
バイオゴールド バイタルを使ってみた
ぱっと明るい兆しが見えてきたような気がしました。ここまで来れば、根の再充実がある程度進んで、草体の方に再びエネルギーを割く準備が整った可能性があります。
そこで、それをさらに後押しすべく活力剤を初めて使ってみることにしました。
今回使ってみたのはバイオゴールド バイタル。
昔見たネペンテスのブログで、バイタルV-RNAの方(これじゃない、もっと高い黒ボトル)の驚異的な復活能力を知っていたので、本当はこの黒い方を使ってみたかったのですが、通販でしか入手できなかったので、善は急げと近場で購入できた白ボトルをひとまず使ってみたのです。
そして、さらに2ヶ月ほどしてどうなったか。
…遂に!!見事、復活を果たしました!!!
小さな新芽が2枚続けて展開して、順番にサイズアップを果たしています。全部がバイオゴールドのおかげかどうかは分かりませんが、もともと復活に向けて動き出そうとしていたところを後押ししてくれた効果は確実にある気がします。
何はともあれ、良かった…。この個体の成熟したピッチャーを拝むことなく別れを告げるという悲しい結末はひとまず避けることができたといえそうです。
とは言えバイオゴールドの影響か、用土の劣化がだいぶ早く進んでいる印象があります。これはそう遠くない未来にまた植え替えが必要になってきそうです。
その後、さらに葉を一枚展開し、先端から伸ばした蔓にはピッチャー形成の気配もあります。この春には小さなピッチャーが見られるかもしれません。楽しみですね。
今回は、導入時の環境激変(とその後の保護管理の甘さ?)が招いた急速な落葉から、なんとか命をとりとめた株について紹介しました。
特にこれといった有効策を打てずにただ見守るといった形になった感がありますので、この株の生命力に助けられた点は否めませんが、個人的にポイントだと思った点や感想は以下になります。
- N. veitchiiは基本的には強健な品種だが、過湿や過乾燥などで根を傷めると急速に弱る
- そのためN. veitchiiの場合、根を傷めたら挿し木や植え替えなどが有効な場合がある(その時点の体力にも依る)
- バイオゴールド バイタル(白)の復活力は(多分)そこそこ高そう
- バイオゴールド バイタル V-RNA(黒)もいざという時の安心のために持っておきたい(高いけど)
特に2つめの、植え替えを決意・断行した点は大きかったのかもしれないと思っています。通気の悪い用土のまま植え替えずに様子を見ていたら、そのまま調子は上向くことなく枯れていたのではと思えてなりません。
その時点でもうだいぶ葉を落としていたし、そこから追加の植え替えダメージでそのまま枯れるかも…と躊躇しましたが、思いの外はやく進行が止まり、踏みとどまってくれたので良かったです。
こういう微妙なところの判断って、おそらく長年の経験に基づく部分が大きいでしょうから、一朝一夕には身に付けられるものではないなと思い、せめて記録に残して自分の中に蓄積されるようにとの意図でこの記事を書いてみました。
(おわり)
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